最近では、飲食店はじめ多くの店舗でPOSレジが導入されていることと思います。POSレジは今や、単なる会計ツールとしてだけではなく、売上分析や顧客満足度の向上、スタッフのシフト管理など店舗運営全体を支える重要な役割を担っています。
モバイルPOSレジの有効活用
この度、支援させていただいた事業者は、店主とアルバイトスタッフ数名で運営する住宅街にある創業15年の小さなパン屋です。このお店では、既にモバイルPOS(スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末にアプリをインストールしてPOSレジとして利用する)レジを導入していました。
モバイルPOSレジは、必要な機能のアプリをインストールすることで機能の追加が容易にでき、従来型のレジと比べて導入コストが低いにもかかわらず、拡張性が高いのが特徴です。
例えば、追加機能の一つにAI画像認識システムというものがあります。この機能を使うと、商品をカメラでスキャンするだけで、商品と価格が自動的にPOSレジに表記され、そのまま会計ができます。(参考:スマレジ Viscovery)
必要な機能を効果的に活用することで、レジでの顧客の待ち時間を削減できるだけなく、スタッフの業務効率を高めることもできます。
付加価値を高めるための大改革
POSデータでは様々なデータ分析ができます。しかし、POSレジの導入により会計システムは簡素化されたものの、データ活用までは実施できていないという事業者も多いようにお見受けします。今回は、データ分析の中でも代表的なABC分析を採用しました。
ABC分析とは、売上や原価、在庫などの指標をもとに、商品やサービスをA、B、Cの3つのグループに分類して分析する手法です。材料費の高騰が経営を圧迫しているとの店主のご相談もあり、今回は、付加価値を高める経営を目指すべく原価率に着目しました。
そもそも付加価値とは?
付加価値は、企業が事業活動によって生み出した製品やサービスの価値のことです。
付加価値額 = 売上高 - 外部購入価値(変動費)
と計算されます。外部購入価値は変動費と置き換えられます。この考え方に基づき、まずはコストを固定費と変動費に分解しました。
固定費と変動費を分解する
固定費: 店主の人件費、家賃、リース料のほか、水道光熱費(売上とは比例しないとの考えから固定費に含めました。)
変動費: アルバイトスタッフの人件費、原材料費、販売促進費など
上記の計算式【付加価値額 = 売上高 – 変動費】から、付加価値を高めるためには、売上を増加させるか変動費を下げるかいずれかの必要があります。立地の関係上、競合店が多く競争が激しいため現時点での値上げは断念し、今回は変動費の削減を目標としました。原価(材料費)をしっかり管理することで付加価値を高めようと考えたためです。
店主と共有したポイント
● よく売れている商品が必ずしも利益を上げているとは限らない
● 店主の想い(売りたい商品)だけでは、利益は増やせない
● 材料費の変動に応じた商品の見直しをデイリーで行う(意識する)
● 来店客数、時間帯に応じたアルバイトフタッフのシフト管理
行ったことを大きく分類すると2つです。
一つ目は、POSデータから日別の商品別売上をExcelへ落とし込む。
二つ目は、材料費などの変動費をExcelで管理し、それを各商品別に配賦する。
商品別売上データと材料費データを連結させ月別、日別に原価管理ができるようにしました。
ここでのポイントは、変動費のみを配賦するということです。材料費の各商品への配賦は大変な作業ですが、店主のコスト意識が高まるきっかけとなりました。材料費の管理は、下記のようなアプリを使うと容易に行うことができます。

(参照:パン屋さんの原価計算サイトより)
そして、利益率の高い商品から順番にA、B、Cの3つのグループに分けて分析を行いました。この分析方法がABC分析です。
Aランクは、利益率が高く強みとなる商品グループです。販売を強化していきます。Bランクは、Aランクにもっていきたい商品グループです。販売価格を上げるか、材料費の削減が必要です。今回は食材の見直しや材料価格の変動に応じた生産量のハンドリングなどにより材料費の削減を行いました。Cランクは利益率の最も低い商品グループのため、材料費の削減ができない場合はその商品をメニューからなくすか、限定販売数を設けるなどの検討に入りました。

※上記は説明用で作成したイメージです。金額や利益率は実際の数値ではありません。
デイリーで利益管理を行う
売上状況と食材価格の変動を意識した利益管理を日々行うことで、店舗全体の利益率を高めることができました。また、曜日別や時間帯別の来店顧客の動向をデータで定期的に確認することで、アルバイトスタッフのシフト管理を効率的に行えるようになりました。さらに、パンを焼き上げるタイミングも工夫するようになりフードロスの削減にもつながりました。
これまでは、こららの全てを店主の感覚で行っていたため、データ分析による発見は大きかったようです。
取り組みにより、4ヶ月で付加価値(限界利益率)が3%上昇し、少しずつ経営状況も良くなっています。今後は、新商品の開発、リピート客を呼び込むためのRFM分析を実行し、客単価の向上や売上の増加に取り組んでいきます。
RFM分析:顧客の最終購入日(Recency)、購入頻度(Frequency)、購入金額(Monetary)の3つの指標で顧客をランク付けし、グループ分けする顧客分析の手法。顧客を優良顧客や休眠顧客などにグループ分けして、グループごとに最適なマーケティングを実施する。